【連載】第3回 ふたりのサウナ【くもりのち雨 時々サウナ】
「飲みにいこうよ」のお誘いがいつもよりうれしくて、その日が楽しみだったのには理由がある。
用意するのはお財布、携帯、に加えて、いつものお風呂セット。目的地は、食事もできるスーパー銭湯だ。
サウナをきっかけに知り合ったNとは、会うのはまだ2回目。ならんで座った送迎バスでの会話は、まだ少しぎこちない。
受付でロッカーキーと館内着を受け取ったら、あとはめいめいにサウナを楽しむ。ロッカーの場所はばらばらなので、あとでね、と脱衣所で別れた。
露天にある広いサウナ室では、皆それぞれ好きなように過ごしていた。下の段でゆっくりとテレビを見る人、上段でストイックに汗を流している人。
どうやらNは上段に座っているようだ。
私は真ん中の段で目を閉じて、ゆっくりと汗を流すのが好きだ。そろそろ水風呂に、と目を開けると、Nもちょうど、サウナ室を出るのが見えた。
水風呂で鉢合わせたNは「塩サウナいってくる」と言ってマッサージ用の塩が置かれているスチームサウナに入っていった。サウナはひとりで入るのが好きだったけれど、Nの少し曇ったような表情が気になって、つい後を追ってしまった。
なんとなく少し距離をあけて座り、アロマブレンドのいい香りのする塩を全身に満遍なく塗り広げる。スチームが吐き出されるときの大きな機械音よりも、ふたりの間の沈黙がうるさい。
「背中、塗ろうか」
沈黙を破ったのは、Nの方だった。私は驚きながらも、おねがい、とNに背中を向けて座りなおす。
Nはわたしの背中に塩を塗りながら、ぽつり、ぽつりと彼女の悩みを話した。私たち二人以外に誰もいないサウナ室で、静かにNの話を聞く。
外で会うだけの関係なら、2回会っただけの人間にはおよそ話せないようなことも、サウナなら不思議と話せてしまうのだろう。私も少しだけ自分の話をして、お互い悩みは尽きないね、と笑いあった。
「ひとりとひとりのサウナ」が「ふたりのサウナ」になったような、そんな気がした。
館内着に着替えて、食事処でNと落ち合う。すっぴんの顔で向き合って、乾杯!とジョッキを合わせる私たちの距離は、格段に近づいている。
「ひとりのサウナ」が好きだけど、「ふたりのサウナ」も悪くない。