映画『星の子』はカルト宗教にハマった両親の愛情で育った少女の物語 / 芦田愛菜の名演に感動です!
【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。
今回ピックアップするのは芦田愛菜主演映画『星の子』(2020年10月9日公開)です。子役時代から演技派だった芦田愛菜ちゃんですが、本作を観てつくづくすごい女優だなと。
宗教団体に心酔している両親と暮らす思春期のヒロインの物語で、作品も素晴らしい出来栄えです!
芥川賞作家・今村夏子さんの同名原作で、演出は長澤まさみ主演映画『MOTHERマザー』の大森立嗣監督。では物語から。
【物語】
林ちひろ(芦田愛菜)は未熟児として生まれ、病弱だったため、父(永瀬正敏)母(原田知世)は、あらゆる手を尽くしてちひろを救おうと必死でした。そんなときに「金星のめぐみ」という水の存在を知り、その水を飲んだところちひろの健康は安定。
スクスクと成長し、中学生になりました。両親は、その水を扱う宗教団体に傾倒していき、ちひろの家族は宗教団体の祭壇やグッズと水に囲まれて暮らすように。しかし、あるときから「他者から自分の家族がどう見られているか」ということを、ちひろは知ることになるのです。
【アブナイ宗教を信じてしまう人の心理】
良かったです! 芦田愛菜ちゃんは、超有名子役だし、演技派なのはわかっていたけど、本作を観て「やっぱり愛菜ちゃん素晴らしい」とひれ伏しました! 共演者の好演や大森監督の見事な演出もあり、観終わったあといろいろ考えさせられる作品になっています。
以前から怪しい宗教にハマる人の心理とはどういうものだろうと思っていましたが、この映画を観て、その一端が少し掴めた気がしました。幼いちひろの命を救った宗教団体の水。ちひろの両親がそれを神と崇めてしまう気持ち、わからなくはありません。宗教にお金をつぎ込み、生活がどんどん貧しくなっても、ちひろと両親はとても幸せそう。
そんな気持ちが理解できない、ちひろの姉や伯父夫婦は彼らを現実に引き戻そうとしますが、両親の信じる気持ちは堅く、両親を信じているちひろも環境を変えようとはしません。だって幸せなんだもの。宗教や水から離れる必要はないわけです。
【ちひろの初恋が信じる気持ちにメスを入れる】
しかし、ちひろの心に変化が訪れます。きっかけは新任の南先生(岡田将生)。ちひろは先生に淡い思いを抱き、先生の顔をイラストに描いたりして、片思いを楽しんでいました。でもそんなささやかな幸福をぶち壊す事件が起こります。
卒業アルバムの作業で遅くなったちひろと友達を先生は車で送ってくれたのですが、通りかかった公園で、ちひろの両親が宗教の儀式を行っていたのです。彼女の親と知らない南先生がその姿を見て放った言葉が、ちひろの胸に深く突き刺さります。先生からの言葉は、ちひろの信じる気持ちを揺るがすのです。
このときのちひろの表情! 大好きな先生の車で送ってもらって最高にうれしかったのに、一瞬にして天国から地獄へ突き落されたようでした。また「他者はそう思っていたのか」「そんな風に見えていたのか」ということにも、ちひろは深く傷ついたでしょう。愛菜ちゃんが名演技をするほどに、悲しみと悔しさで胸がえぐられました。
【信じる気持ちと幸福について】
『星の子』の完成報告イベントで、愛菜ちゃんが信じることについて語った持論がスゴイ!と話題になりましたが、本当に的確に語っていましたね! この映画は、信じる気持ちと幸福について描いていると思いました。両親は娘を救った水を信じ、娘は宗教ではなく両親を信じています。
ちひろは先生の言葉で気持ちがグラつきますが、愛菜ちゃんがイベントで語ったように、信じられなくなっても、裏切られても「この人はそういう人なんだ」と相手を認め、自分の信念を曲げなければ、平穏や幸福は続いていくのかなと。
それを証明していたのが、ちひろの親友のなべちゃん(新音)と新村くん(田村飛呂人)です。ふたりは何があっても、ちひろの側にいましたからね。ちひろにいい友達がいてよかった~!
あと女優・芦田愛菜が凄いと思ったのは、この映画は心情をセリフで説明せず、役者の表情や行動やしぐさで表しているのですが、いちばん気持ちのアップダウンが大きいちひろ役の愛菜ちゃんが、その心の移り変わりを見事に表現していることです。大森監督が愛菜ちゃんの力を信じていたんだなあとしみじみ思いました。
執筆=斎藤 香 (c)Pouch
『星の子』
(2020年10月9日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー)
監督・脚本:大森立嗣
出演:芦田愛菜、永瀬正敏、原田知世、岡田将生、大友康平、高良健吾、黒木華、蒔田彩珠、新音、田村飛呂人ほか