岩井俊二が描く映画『ラストレター』は初恋を思い出す切なくてじんわりする作品…名作「ラブレター」に似た演出もありました
【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。
今回ピックアップするのは岩井俊二監督の最新作『ラストレター』(2019年1月17日公開)です。岩井監督の傑作ラブストーリー『Love Letter』(1995年)を彷彿させる、手紙をモチーフにした初恋物語です。これが学生時代に気持ちをトリップさせてくれる作品なんですよ~。まずは物語から。
【物語】
裕里(松たか子)の姉の未咲(広瀬すず)が亡くなった。遺影の姉は、彼女のひとり娘である鮎美(広瀬すず 二役)によく似ています。鮎美から、同窓会の案内の手紙を受け取った裕里は、姉の死を知らせるために同窓会に出席しますが、何十年ぶりかに会う姉の同窓生たちは、裕里を未咲と勘違い。
裕里はそのまま姉のふりをし続けて、初恋の人、鏡史郎(福山雅治)と言葉を交わします。再会をきっかけに、鏡史郎と文通を始めることになった裕里。彼女は姉のふりをして手紙を書き続けますが……。
【現在と過去をつなぐ初恋物語】
岩井俊二監督の『Love Letter』は、ヒロイン(中山美穂)が、亡くなった恋人の故郷に手紙を送ったことをきっかけに、恋人と同姓同名の女性(中山美穂二役)との文通が始まる、場所と時間を超えて蘇る初恋物語。『ラストレター』と構成が似ています。
本作では、広瀬すずが亡くなった母と娘の二役を演じていますが、裕里の娘の颯香を演じる森七菜も裕里の少女時代と二役を演じていますし、手紙のやりとりが「大切な人の死」からスタートしているところも一緒です。ただ回想シーンで描かれる初恋物語は、『Love Letter』よりも『ラストレター』の方がパンチが効いていますね。鏡史郎と未咲と裕里の初恋ストーリーの中で、裕里はすごく思い切った嘘をつき続けるからです。
【嘘がドラマを盛り上げていく】
未咲と裕里が通う高校に転校生としてやってきた鏡史郎(神木隆之介)に裕里は恋をしますが、彼が心を寄せているのは、姉の未咲。裕里は「未咲と先輩が両想いになったらどうしよう!」と仲良くならないようにある策を練ります。
それは結果的に鏡史郎を騙すことになるのですが、彼を傷つけても彼女は自分の「先輩のことが好き!」という思いを守りたかったのです。この裕里の行動はズルイ。ズルイんだけど、めちゃくちゃ共感できる。学生時代、好きな男子が、自分の友人のことが好きだとわかったときのショック。「お願いだから、くっつかないでー」と心の中で念じたりして。この映画の姉妹の初恋物語には、そんな遠い遠い日の甘酸っぱーい思いが蘇ってくるのです。
【松たか子が素晴らしい!】
裕里は大人になっても、鏡史郎の前で姉のふりをしたり、未咲として手紙を書いたり、小さな嘘をつくわけですが、彼女は悪気がないのです。鏡史郎と交流を持ちたくて、普通は躊躇することをやってしまう。それが裕里という女性。
そんな一歩間違うと嫌われ女になりそうな女性を松たか子さんがすごく絶妙な演技でチャーミングに魅せています。この映画の中心人物で、物語を展開させていく重要な役割なのですが、それを軽やかにコミカルに演じていて、松さん、本当に素敵でした!
【少女たちが美しい岩井俊二ワールド】
岩井俊二監督は本当に少女を描くのが上手で、本作でも広瀬すずと森七菜がかもしだす十代のきらめきはまぶしいほどです。いまどきの同世代の女の子に比べると少し古風な感じもしますが、そこには理想の少女像も加味されているのかもしれません。
広瀬すずさんは、珍しく陰のある少女役で、これが意外と似合っていました。多くの映画で広瀬さんを観ているにもかかわらず、いまだフレッシュかつみずみずしさが消えないところは凄い。広瀬すず、おそるべし!という感じです。
ちなみに映画『Love Letter』に出演していた中山美穂さんと豊川悦司さんも本作に出演していて、『Love Letter』好きは感慨深いかも。大人女子がノスタルジーに浸れる映画『ラストレター』。岩井俊二ワールドにどっぷり浸ってください。
『ラストレター』
(2020年1月17日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー)
監督・脚本・編集:岩井俊二
原作:岩井俊二「ラストレター」(文春文庫刊)
出演:松たか子、広瀬すず、庵野秀明、森七菜、小室等、水越けいこ、木内みどり、鈴木慶一、豊川悦司、中山美穂、神木隆之介、福山雅治
(C)2020「ラストレター」製作委員会