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【本音レビュー】樹木希林の遺作『命みじかし、恋せよ乙女』で見せるラスト15分の名演は圧巻! しかし賛否両論映画でもあるのです…

   


【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

樹木希林さんの遺作はドイツ映画だった! ちょっと驚きじゃないですか? 樹木さんの最後の名演が見られる映画『命みじかし、恋せよ乙女』(2019年8月16日公開)を鑑賞しました。情報を何も入れずに観たので「あれ??」と思うところもあり、それも含めて本音レビューでご紹介したいと思います。

【物語】

舞台はドイツ・ミュンヘン。アルコール依存症に苦しむカール(ゴロ・オイラー)のもとに、亡き父ルディと交流があった日本人女性ユウ(入月絢)が訪ねてきます。ルディの家を見たいと言われたカールは、ユウと一緒に空き家になった実家へ。母には溺愛されていたが、父は厳しく、姉や兄からはいじめられていたカール。彼は実家で、そんな苦い少年時代を思い出します。それをきっかけに姉や兄と再会し、カールはいままで苦し過ぎて背を向けていた過去と向き合うことになるのですが……。

【日本女性が運んできたスピリチュアルな世界】

冒頭、泥酔したまま別れた妻と子供に会いに来て、元妻にこっぴどく怒られ、追い出されるカール。ダメ男の典型パターンからスタートする本作ですが、そんな現実的なシーンが日本女性ユウの登場後、次第にホラーテイストのスピリチュアルワールドに。実家ではさまざまな苦しい過去が蘇り、悪霊(苦い過去の象徴?)が登場したりして、カールが恐れ、苦しむ姿が描かれます。

【家族との過去は、なかったことにはできない】

嫌なことがあったとき「忘れよう」と思ったりするものの、嫌なことほどいつまでも覚えているものですよね。カールも同じです。過去のフラッシュバックは、いじめられたことや父との喧嘩のことばかり。兄姉との再会も最初は険悪です。でも、人間はいい方に変わることもあり、カールと兄姉は話し合ううちに、だんだん頑なな気持ちが柔らかく変化していくのです。嫌な過去を向き合うのは辛いけど、それを乗り越えたとき、カールみたいに少し光が見えるのかもしれません。

【樹木希林、ドイツ映画でも日本映画と変わらぬ存在感】

それにしても樹木希林が全然出てこない! いったいいつ登場するの?と思ったら、消えたユウを探すために、カールがユウの故郷、神奈川県の茅ヶ崎に来たところでやっと登場します。

カールが宿泊する茅ヶ崎館の女将役。カールにユウのこと聞かれても、のらりくらりとかわすチャーミングな女将で、15分くらいの短い登場シーンですが、とても貴重で大切な時間のように感じました。希林さんの役どころは映画をエンディングへと繋げる重要な役であり、ユウの秘密はそのまま女将の悲劇にも重なり、切なかったです。

【賛否両論がある映画】

本作は賛否両論ある作品です。たしかに「樹木希林が主演のように見えるけど実際は最後の方しか出てこない」「悪霊が登場するなどホラー要素がある」など、ポスターやタイトルのイメージとは大きく異なる作品でした。

ドーリス・デリエ監督は「ドイツのデーモン(悪魔)と日本の幽霊を繋ぎたい」「現実と夢を同時に並べて描きたい」という思いで演出していたそうですが、個人的には観念的すぎて、ちょっと伝わりにくいような……。自分の過去にモヤモヤしていたり、過去と向き合いたいけど勇気がないという人が観ると、気づきがある映画なのかもしれません。

ちなみに樹木さんが登場する旅館「茅ヶ崎館」は実在します。樹木さんが本作に出演したのは、付き人時代に行ったことのある「茅ヶ崎館」にもう一度行きたかったからだとか。

かつて名匠・小津安二郎が滞在していたことがあり、最近では是枝裕和監督がこの旅館で脚本執筆するそう。映画を見た後「茅ヶ崎館」など、ロケ地めぐりするのも楽しいかもしれませんね。

執筆:斎藤 香 (c)Pouch

命みじかし、恋せよ乙女
(2019年8月16日より、TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー)
監督&脚本:ドーリス・デリエ
出演:ゴロ・オイラー、入月絢、ハンネローレ・エルスナー、エルマー・ウェッパー、樹木希林
©2019 OLGA FILM GMBH, ROLIZE GMBH & CO. KG
© 2013 Free Range Films Limited/ The British Film Institute / Curzon Film Rights 2 and Channel Four TeleCorporation.

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