【本音レビュー】主演を務める博多華丸の演技力に感動! 映画『めんたいぴりり』は辛子明太子「ふくや」創業者の物語です
【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。
今回ピックアップするのはお笑いコンビ、博多華丸・大吉の華丸さんが主演している映画『めんたいぴりり』(2019年1月18日公開)です。本作は、辛子明太子の製造・販売を日本で初めて手掛けた博多の「ふくや」創業者・川原俊夫さんの実話をベースにした物語。
2013年にローカルドラマとして放送されていたものが、さまざまな放送賞を受賞し、舞台化もするなど異例のヒットに。華丸さんは舞台、テレビドラマに続いて主演をつとめていますが、映画でも最初っから飛ばす飛ばす!ハイテンションの演技がすごいんです。では物語から。
【物語】
昭和30年代、戦争の傷跡を残した九州・福岡。中洲の一角で、妻の千代子(富田靖子)と食料品店「ふくのや」を営む海野(博多華丸)は、日々、明太子の試作品を作ることに明け暮れていました。戦前、日本統下の韓国で生まれ育った海野は、そのときに食べた「明卵漬 (ミョンランジョ)」をヒントに明太子を店の商品にしようとしていたのです。でも、なかなかうまくいかなくて……。
【「ふくや」の辛子明太子誕生の秘密】
博多土産の定番のひとつ「ふくや」の辛子明太子誕生の裏にこのような物語があったとは! 舞台、ドラマ、そして映画化されるほど愛されている「ふくや」の創業者の物語ですが、苦労して辛子明太子を世に出したにもかかわらず、全然苦労話になっていないところがすごくいいです。
海野のキャラをよく表しているのが「ふくのや」の味を盗まれたときです。試行錯誤を重ねてオリジナルの味にした辛子明太子がやっと売れるようになったのに、同業者がこっそり、その味を盗んで「元祖 辛子明太子」として売り出してしまう。従業員は怒り心頭だけど、海野は全然怒らないんですよ。
「マネされるってことは、俺の明太子が認められたっちゅーことばい!」と前向き。
「うちの味を守るために、特許を取りましょう」と従業員から提案されたときは「みんなで明太子ば作って、博多の名物にする」と特許取得を却下。おいしい辛子明太子を売りまくって「金持ちになろう!」ではなく「博多の街おこしにしよう!」みたいな心意気が、本当にスカっと気持ちよいんです。
【華丸さんのハイテンションが映画を盛り上げる!】
さて、役者、博多華丸は?というと、演技を超越した博多華丸劇場でした! 常に明るく元気にハイテンション。でも決してウケを狙っているわけではなく、海野のキャラと華丸さんのキャラが見事に融合しているのです。
戦後、まだ復興最中の博多が舞台ですから、生活はいろいろ大変なわけです。従業員と家族が一緒に囲む食卓は、笑顔はいっぱいあるけどおかずは少ないし、従業員にボーナスもありません。そりゃみんな不満はありますが、海野の人の好さをよくわかっているからこそ、誰一人彼を憎む者はいない。
それは、この人の側にいると前を向ける、元気になれる、生きていける!と思うからではないかと。本当に太陽のような主人公なんですよ。そんな彼を華丸さんが、あのクリクリの大きな目をより大きく見開いて大熱演していて、私は華丸さんが目をギョロギョロさせるたびに笑っちゃいましたよ。
【コントと芝居の見事な融合】
また本作には相方の大吉さんも出演しています。夢に出てくるスケトウダラの妖精としてマーメイド風のコスチュームでキレイにお化粧して登場し、海野に喝を入れたり、なだめたりする役回りをしています。
このスケトウダラのシーンはコントみたいなのですが、突っ走りがちな海野が歩みを止めて、ちょっと考える時間でもあるんですよ。海野のキャラとスケトウダラの妖精の相性もばっちりなので、映画の中であんまり浮いている印象もなく、さすが博多華丸・大吉コンビだなあと、ホノボノしちゃいました。
物語の中には、海野が戦時中を思い出すエピソードもあり、そこはちょっと重いのですが、そんな生死の境目を生き延びてきたからこそ、どんなに苦労しても辛子明太子作りを楽しみながらできるし、レシピを盗もうとした同業者にも「一緒に頑張ろう」と言えるのかもしれないなと……。
明るく元気で前向きなだけじゃない。すごく強い主人公・海野俊之。今後、辛子明太子を食べるとき、この映画のことや華丸さんの顔を思い出してしまいそうです。
『めんたいぴりり』
(2019年1月18日より、新宿バルト9ほか全国ロードショー)
監督:江口カン
出演:博多華丸、富田靖子、斉藤優、瀬口寛之、福場俊策、井上佳子、山時聡真、増永成遥、豊嶋花、酒匂美代子、ゴリけん、博多大吉、中澤裕子、高田延彦、吉本実憂、柄本時生、田中健、でんでん
(C)2019めんたいぴりり製作委員会