小栗旬と星野源コンビが35年前の未解決事件に迫る… 映画『罪の声』は事件に巻き込まれた人々の苦悩を描くミステリー
【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。
今回ピックアップするのは、小栗旬主演、星野源共演のヒューマンミステリー映画『罪の声』（2020年10月30日公開）です。作家・塩田武士さんの同名著作の映画化。2016年の「週刊文春ミステリーベスト10」で第1位になったベストセラーで、日本中を震撼させた昭和の未解決事件をモチーフにしています。
子供の頃、気づかないうちに事件にかかわっていた男を星野源さんが演じ、この事件を追いかける新聞記者を小栗旬さんが演じています。このふたりの熱演と事件の核心に迫っていくスリルがたまらない！ では物語からいってみましょう。
【物語】
35年前、食品会社を標的にした企業脅迫事件は日本中を震撼させました。誘拐、身代金要求、食品への毒物混入、警察やマスコミへの挑発など、前例のない劇場型犯罪で、関係者を振り回した挙句、犯人グループは忽然と姿を消しました。大日本新聞社の記者・阿久津（小栗旬）は未解決事件の特別企画班に選ばれ、この事件の取材を開始します。
一方、京都でテーラーを営む曽根（星野源）は、父親の遺品の中にあった1本のカセットテープを聞いて驚きます。「俺の声だ！」。幼い頃の自分の声が録音されたテープの内容は、未解決の企業脅迫事件で身代金の受け渡しに使用した脅迫テープの子供の声とまったく一緒だったのです。
【犯罪に巻き込まれた人の苦しみに涙】
原作は未読で映画を鑑賞しましたが、本当に見応えのあるミステリーでした。阿久津記者の取材と別行動で曽根も「真実を知りたい」と行動を開始するのですが、そこで明らかになっていく「事件に巻き込まれた人々の苦しみ」には、やりきれなさを感じました。
曽根はその被害者のひとりなのですが、彼は巻き込まれた人の中でも幸運。家族と仲が良く、テーラーとしてお店を持つほどですから。でも曽根は「自分はラッキー」と胡坐をかく人物ではなく、同じように巻き込まれた人のことを知って、救おうという行動に出るんですね。
知らなければ苦しむこともないのに、臭いものに蓋をせず、きちんと向き合うその姿勢。星野源さんが、曽根の真面目で誠実な人物像をしっかり把握して丁寧に演じており、だからこそ観客は曽根と一緒に真実に驚いたり、悲しんだりすることができる。
星野さんのこういう芝居を始めて観たせいか、新たな魅力に触れた！と感じました。
【最高の難役に挑戦した小栗旬】
主演の小栗旬さんは、昭和の未解決事件を追いかける阿久津記者として、取材対象の話を聞き、自分に落とし込み、また次の現場で話を聞き……という、ひたすら行動しているけど受け身という、難役に挑戦していました。
星野さん演じる曽根役はドラマが次々起こりますが、阿久津は事件を第三者的に見ている立場なので、そこで個性を発揮するのは難しかったと思います。
アクションもコメディも何でもできるし、主演としての華もオーラもイケメンのフェロモンもある！という小栗さんが、本作では主演ですが、すごく抑制した芝居を貫いており、華やかさの中に渋さが加わって「こういう小栗旬、初めて観たかも～」と感動しました！
【小栗旬と星野源コンビがヘビィなシーンの癒しに】
映画の前半は、阿久津と曽根は同じ事件を別々に追っていますが、やがて合流。未解決の事件なので、明らかになっていないことが多いものの、ふたりは取材を積み重ねて真実に近づいていく。様々な関係者の語りにより、開かずの扉が開かれていき、中が見えていく過程は本当にスリリング！
特に曽根以外にももうひとり、子供時代に声を事件に利用された少女が登場し、曽根は彼女がいまどうしているのかを追いかけるのですが、この家族のエピソードがショッキングで……。詳しくは映画をぜひ見ていただきたいのですが、これは泣きました。無実の人を強引に犯罪に巻き込むことが、どんなに残酷なことなのか！
と、内容はヘビィながら、阿久津と曽根は「いい人」という共通点があり、ふたりは自然に意気投合していきます。彼らのシーンは風通しがいい感じで、重いシーンがあっても、いいコンビぶりを発揮することで、ちょっとホっとするというか、まさに癒し。小栗旬と星野源は相性がいいことがわかったので、ぜひまた共演してほしいです。
秋にピッタリの見応えのあるミステリー映画『罪の声』。ちなみに脚本はドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」「MIU404」の野木亜紀子さんです。今回コミカルな描写はありませんが、やっぱり野木脚本はいいなと思える映画でもあります。ぜひぜひ劇場でご覧ください。
執筆：斎藤 香 (c)Pouch
『罪の声』
（2020年10月30日（金）より、TOHO シネマズ日比谷ほか全国東宝系にて公開）
監督：土井裕泰
脚本：野木亜紀子
原作：塩田武士「罪の声」（講談社文庫刊）
出演：小栗旬、星野源、松重豊、古舘寛治 / 宇野祥平、篠原ゆき子、原菜乃華、阿部亮平 / 尾上寛之、川口覚、阿部純子 /市川実日子、火野正平 / 宇崎竜童、梶芽衣子
※古舘寛治の「舘」の漢字→正くは「舎+官」の外字
(c)2020 映画「罪の声」製作委員会
