映画『1917 命をかけた伝令』はワンカット撮影ゆえの緊張感がすごい! 観客は戦場に放り込まれたような気持ちになります
【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。
今回ピックアップするのは、第92回アカデミー賞撮影賞、視覚効果賞、録音賞を受賞した映画『1917 命をかけた伝令』です。『アメリカン・ビューティ』でアカデミー賞監督賞を受賞。『007/スカイフォール』『007/スペクター』とヒット作を手掛けたサム・メンデス監督がワンカットの映像で仕上げた画期的な作品です!では物語から。
【物語】
第一次世界大戦中、長大な防衛線を挟んで、ドイツ軍と連合国軍の戦いが続いていました。そのさなか、イギリス軍の若き兵士スコフィールド(ジョージ・マッケイ)とブレイク(ディーン=チャールズ・チャップマン)は、撤退したドイツ軍を追撃中のマッケンジー大佐(ベネディクト・カンバーバッチ)の1600人の部隊に「作戦中止」という重要なメッセージを届ける任務を与えられます。無法地帯の戦場を若い兵士二人は、伝令のために走り続けるのですが……。
【ワンカットに見える魔法のような映像】
映画『1917』の最大の衝撃はやはりワンカット撮影でしょう。正確には全編ワンカットで撮影されているのではなく、ワンシーンワンカットで撮影し、それを繋げているのですが、観客にはその繋ぎ目がまったくわからないから全編ワンカットのように観えるという、これぞ映像マジック。
目の前で起こっているような臨場感で、私たちは映画が始まるとすぐに戦場に放り込まれ、スコフィールドとブレイクとともに伝令係として、墜落する戦闘機や爆撃の中を走り続けているような気持ちにさせられます。もう、怖い怖い!
【まるで戦争実体験。ゆえに戦争の恐ろしさを感じる】
最近は細かいカット割りで映画にテンポをつける作品が多いですが、本作は逆。流れるように進んでいく映像が観客を飲み込んでいくとでもいいましょうか。上映時間119分間、スコフィールドたちと戦場を駆け抜ける体験は苦しかったですね。本気で「戦争は絶対にイヤ!」という気持ちが強まりました。
ドイツ軍の嘘を見抜けなかった軍隊のための伝令。通信手段が遮断されてしまったゆえに、彼らに託すしかなかったのですが、スコフィールドとブレクの命を危険にさらすか、マッケンジーの軍隊の危機か。その二択しかないというのが戦争の残酷さを物語っています。
【シンプルだからこそ胸を打つ感動のストーリー】
『1917』は、スコフィールドとブレイクが伝令係として任務を全うする姿をひたすら追いかける物語で、実にシンプルです。でもその道中、二人の友情も描かれます。優等生のスコフィールドと違って、ブレイクはまだ兵士になって日が浅く、ちょっと子供っぽくて可愛いんですよ。実は彼らが救おうとしている軍隊の中には、ブレイクの兄もいるので、彼にとっては兄を救うための任務でもあるのです。家族思いでやさしいブレイク。そんなブレイクに心を開いていくスコフィールド。彼は「絶対にブレイクのお兄さんを救おう」と心に誓う……。二人の友情は激しい戦場の中で唯一の癒しです。
『1917命をかけた伝令』は画期的な映像体験ができると同時に、戦争について考える機会も与えてくれます。リアリティがあるからこその怖さを実感してほしい。絶対にスクリーンで観るべき映画です!ぜひ劇場でご覧ください。
執筆=斎藤 香 (c) pouch
『1917』
(2020年2月14日公開、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー)
監督:サム・メンデス
出演:ジョージ・マッケイ、ディーン=チャールズ・チャップマン、コリン・ファース、アンドリュー・スコット、マーク・ストロング、リチャード・マッデン、ベネディクト・カンバーバッチ
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