【本音レビュー】映画『ドクター・スリープ』は『シャイニング』の続編というよりスピンオフ? 暗闇から出てくる裸の老婆に要注意です!
【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。
今回ピックアップするのは映画『ドクター・スリープ』(2019年11月29日公開)です。原作はスティーヴン・キングの同名小説。名匠スタンリー・キューブリック監督の名作『シャイニング』の40年後を描いた続編ですが……だいぶ想像と違いました。とりあえず物語からいってみましょう。
【物語】
呪われた「展望ホテル」で、父親に殺されそうになりながらも、生き延びたダニー(ユアン・マクレガー)。しかし、40年経ったいまもそのときの恐怖を抱えたまま、悪夢に苦しむ毎日を送っていました。
そんなある日、ダニーはアブラ(カイリー・カラン)という少女に出会います。アブラはダニーと同じ特殊能力「シャイニング」の持ち主でした。そんな彼らを、特殊能力を食べて生きるカルト集団「トゥルー・ノット」が狙います。彼らを倒すためには「展望ホテル」の闇の力が必要であると考えたダニーとアブラは、かつて父に襲われたあのホテルにおびき寄せるのですが……。
【心理ホラーからSFアクション映画へ?】
今作の主役は『シャイニング』の主人公の息子・ダニーです。
1980年制作『シャイニング』は、ダニーの父親である作家のジャック(ジャック・ニコルソン)が、冬の間、家族と滞在した「展望ホテル」内で、精神が壊れてしまい、妻子を殺そうと追いかけまわすというホラー映画でした。
趣向を凝らした映像やジャック・ニコルソンの怪演により、名作と言われている『シャイニング』。その続編ですから、同じような背筋がゾワゾワする恐怖を期待していました! が、しかし、なんとドラキュラ+アクションみたいな映画だったんです。
【主人公の人間味あふれるキャラが本作のポイント】
とにかく作品へのアプローチが全然違うんですよ。前作は完全に作家のジャックにフォーカスして、彼が狂っていく様を描いていました。キューブリック監督は原作を改変して映画化したせいか、キング先生は完成した作品に怒り心頭だったそうですが、狂気にかられた人間の暴走が、すごく怖かったことを覚えています。
でも、本作は特殊能力を持った人間たちの生気を食べて生きるドラキュラみたいな集団との闘いがメインで、アクションシーンも豊富にあり(「トゥルー・ノット」の女ボスが超強い!)、世界観が全く違い、想像を超えた展開にビックリ。
【『シャイニング』のスピンオフ?】
でも、監督が代われば世界観が変わるのは当然だし、何よりマイク・フラナガン監督の言葉「ダニーは観客が理解できる人間」というのが本作のキモだと思いました。
前作の主人公ジャックは、狂気にかられたモンスターになっていくので、共感はできませんでしたが、本作の主人公ダニーは特殊能力を持った人物だけど、父の酒癖の悪さ、暴力的なところを受け継いでいることに悩み、苦しみながら生きる様はすごく人間味が溢れています。
その彼が、父が妻子を殺すために振り回していた斧を自分も振り回しながら「トゥルー・ノット」に闘いを挑む姿はちょっと胸アツに。
また、強くないところが、なんというか母性をくすぐるというか……(ユアンが演じたからそう思ったのかもしれませんが)。続編としてみると違和感があるのですが、スピンオフだと思えばいいのかなと思いました。
本作には『シャイニング』のような狂気の怖さはないのですが、ダニーが特殊な力で封印していた死者たちが登場するシーンはけっこう怖いです。特に、全裸の老婆が暗闇やバスタブから出てくるシーンでは、突然の登場に「ヒッ!」となりました。怖がりの人はオババのシーンに要注意です!
執筆:斎藤 香 (c)Pouch
『ドクター・スリープ』
(2019年11月29日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー)
監督&脚本:マイク・フラナガン
原作:スティーヴン・キング「ドクター・スリープ」(文春文庫刊)
出演:ユアン・マクレガー、レベッカ・ファーガソン、カイリー・カラン、クリフ・カーティス、カール・ランブリー、ザーン・マクラーノン、エミリー・アリン・リンド
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