菅田将暉と田中泯の演技力が凄まじい…映画『アルキメデスの大戦』は残酷シーン無しの頭脳がメインの戦争映画です
【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。
今回ピックアップするのは菅田将暉主演作『アルキメデスの大戦』(2019年7月26日公開)です。戦争映画なのですが、実にユニークな角度から戦争を描いた作品です。キャッチフレーズは「これは、数学で戦争を止めようとした男の物語」。
菅田さんが演じるのは数学の天才で、武器は理数系の頭脳というのがおもしろいんです! では物語から。
【物語】
100人のひとりの天才数学者の櫂直(菅田将暉)のもとに海軍少尉の山本五十六(舘ひろし)がやってきます。海軍は空母で闘うべきだと考える山本は、戦艦大和の建造に反対。戦艦建造推進派と対立しており、櫂に「巨額の金が必要になるであろう戦艦大和の見積もりを算出してくれ」と言うのです。しかし、設計図は推進派の機密書類で見られません。櫂はいきなりピンチに陥るのですが……。
【戦艦大和をめぐる男たちの頭脳戦が面白い!】
結論を先に申し上げますと、めちゃくちゃ面白かったです! 戦争映画は少々苦手なのですが、本作は銃撃戦で多くの人が死んでゆく……といった戦争映画でよく描写されるような残酷な映像はありません。
戦艦大和をめぐり、分断された海軍の頭脳戦を描いた開戦前の物語。敵対する戦艦推進派の軍人たちのハッタリや駆け引きや嘘を見破り、戦争を止めるために、櫂は得意の数学を使って立ち向かう。櫂の武器は銃ではなく頭脳であり、それも数学というところがユニークです。
【風変りな天才数学者を魅力的に演じる菅田将暉の底力!】
そして菅田将暉は本作でも輝いていました! ガチガチにお堅い軍人たちの中で、ひときわ異彩を放つ櫂。なにしろ人でも何でも興味を持ったものの寸法を測らずにいられないというおかしな癖の持ち主で、戦艦大和の設計図をイメージするために同じような戦艦に乗り込み、巻き尺で戦艦の長さを測るという……。
彼の助手として行動を共にする海軍少尉・田中(柄本佑)が茫然とするのも無理はありません。そんな変わり者でも魅力的に見せてしまうのは菅田さんが役の見せ方をわかっているから。天才と何とかは紙一重といいますが、櫂はまさにそういう人物。その境界線上を菅田将暉は絶妙のバランスで演じきっています。特に黒板に数式を書きながら、セリフで解いていくシーンは圧巻。その姿はまさに天才そのものでした!
【タイムリミットサスペンスと重みある感動】
期日までに見積もりを出さないと、建造推進派に戦艦大和建造を許してしまう……というタイムリミットサスペンスの趣向もあるので後半はずっとハラハラの連続です。そして櫂を変わり者扱いしていた田中もいつの間にかその才能に魅せられて全面協力。菅田さんと柄本さんの相性も抜群でかっこいいバディでしたよ!
クライマックスの海軍のトップが集まった大会議室。ベテラン俳優たちのいぶし銀の力と菅田さんと柄本さんの若い力がぶつかりあう様は手に汗握ります。そして最後の最後、造船中尉の平山を演じる田中泯さんの狂気をはらんだ存在感は、すべてを吹き飛ばす迫力がありました。
結局、日本は第二次世界大戦に突入してしまうことはみなさんご存知。「では櫂の努力はどうなるの?」と思ったら、ぜひ本作を見てください。本作にはその答えがしっかり描かれていますから。
執筆:斎藤 香(c)Pouch
『アルキメデスの大戦』
(2019年7月26日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー)
監督 脚本 VFX:山崎貴
原作:三田紀房「アルキメデスの大戦」(講談社「ヤングマガジン」連載)
出演:菅田将暉、柄本佑、浜辺美波、笑福亭鶴瓶、小林克也、小日向文世、國村隼、橋爪功、田中泯、舘ひろし
(C)2019「アルキメデスの大戦」製作委員会
(C)三田紀房/講談社