ディズニー好きを全力で否定する男、フタをあけてみると深い闇…? ダメ男に悩む乙女限定の「スナックマリアンヌ」
ここは、恵比寿の外れに佇む雑居ビルの2階、スナックマリアンヌ。ダメそうでダメじゃないちょっとだけダメな男に悩む乙女が夜な夜な集う、憩いの場です。今宵もマリアンヌママに話を聞いてもらおうと、お客さまがやってきたようです。
――カランカラン。
乙女「ママ、ディズニーランド好き?」
ママ「そうね……ま、普通かしら。でも、行くとハマっちゃうのよね」
乙女「私も特別大好きってわけじゃないけど、ディズニー好きを否定したりはしないじゃない? それなのに、私の彼って……ママ、聞いて!」
【今日のダメ男さん:あらゆるメジャーなものを全力で否定するイタイ男】
相談者:カヨ(34歳)
職業:編集プロダクション 編集者
ダメ男さん:彼氏(27歳)
職業:映像制作会社 ディレクター
交際期間:3か月
出会いのきっかけ:会社の近くのバーで居合わせて
ママ「3か月くらい前だったわよね、あなたから彼氏ができたって話を聞いたのは。年下だけど、久々にいい人に巡り会えたって言ってたじゃない」
カヨ「そう、そうだったんだけどね。お酒も私と同じくらい飲むし、年下だけど自分の意見や考えをしっかり持っていて話が面白いし、でも……」
ママ「あなたと同じくらい飲むなんて、相当ね。おかわりは濃いめの水割りでいい?」
カヨ「ありがとう、できれば相当濃いめで。さっきのディズニーの話なんだけどね、ディズニー好きって世の中に多いじゃない? そういう人たちのことをなんていうか……バカにするっていうか、『俺はディズニー好きとか無理、話合わないから』とかって言うの」
ママ「はあん」
カヨ「それもたぶん明確な理由なんてなくて、ただ単にミーハーなやつらだとか思ってるんじゃないかなあ。小説とか漫画とかもいろいろ読むからいろんなこと知ってるし、ロマンチストなところもあるんだけどね、なぜかディズニー好きの人にすぐ噛みつくっていうか……。ディズニーの面白さも知らないで」
ママ「いるわよねえ、そういう男。なにも知らないうちから否定するタイプ。自分の殻にこもって、新しい物事にチャレンジできない人ね。きっとそのままカッピカピの頑固ジジイになっていくのよ。はい、そんな彼氏がいるカヨちゃんの今日のおつまみは【ピスタチオ】よ」
カヨ「ピスタチオ、大好き! (パキッ)(パキッ) でも、この殻を割るのが面倒だよねえ。どうしてピスタチオって、殻付きのものが多いんだろう?」
ママ「(パキッ)いいところに目をつけたわね」
カヨ「えっ?」
ママ「ピスタチオって、他のナッツに比べて湿気に弱いらしいのよ。だから、この硬い殻がないと風味が落ちやすいの。つまり、外側を殻で頑丈に覆っていても、思ったより中身は弱弱しいってことよ、誰かさんみたいに」
カヨ「それって……彼のこと?」
ママ「そうは言ってないけど、カヨちゃんが思うのならそうかもしれないわね、彼。ピ・ス・タ・チ・男」
カヨ「なにそれ。全然面白くない。でも、彼がピスタチ男なら、この先きっと伸びしろがあると思うの。ピスタチオってデザートにも使われてたり、けっこういろいろアレンジきくじゃない?」
ママ「さすが、このお店に週3で通ってボトルキープするだけはあるわ。でも、一生殻が割れずに鮮やかな緑色がどんどんくすんでいったとしたら? そんなピスタチオ使い物にならないわ、犬のエサにもならないもの」
カヨ「確かに……」
ママ「よく思い出してみて。彼ってディズニーランドだけじゃなくて、いろんなメジャーなものに拒否反応を示す方じゃない?」
カヨ「よく考えてみれば、デイズニーだけじゃないかも」
ママ「小説も読むって言ってたけど、例えば村上春樹を真っ向から否定するタイプだったりしないかしら?」
カヨ「うん、『村上春樹は昔読んだけど、あれは高校生までだわ』ってよく言ってる」
ママ「それから、ハリウッド映画を否定するような男だったりしない? 」
カヨ「そう、そう! 超話題作をけなしまくって、挙げ句の果てに『まあ、見てないけど』って言うの、頭きちゃう」
ママ「弱い奴ほどよく吠えるって言うけど、彼もそういうタイプかもしれないわね。メジャーなものを否定することで、アイデンティティーをなんとか保ち続ける男。そういう男って、けっこう気弱だったり、心配性だったりするのよ。まあ要するに、まだ若いってことね」
カヨ「そうか……」
ママ「30過ぎればだいたい落ち着くのよ、ハリウッドも悪くないナーとか言い出したりして。でも、すぐに何とかしたいんだったら、あなたがきちんと育ててあげるしかないわね、そのピスタチ男」
カヨ「育てるって、どうやって?」
ママ「彼がカルチャー面で尊敬している人っているでしょう? そういう人が大好きだっていうハリウッド映画、いっしょに見てみるのよ。もちろん音楽でもいいしディズニーでもいいけど、ようするに『殻を破るためには理由が必要』なの。あの人も評価していた、とかね」
カヨ「ミーハーかよ」
ママ「そう、結局そうなのよ。だから、『若さ』。そこにおつきあいしてあげるのもね、若いうちしかできないわよ」
カヨ「うーん、めんどくさいなあ」
ママ「まあ、ピスタチ男の殻が割れないなら、外側はそうとう癖があるけど中身は苦みもきいてしっとりおいしい『ぎんなん男』みたいな別の相手を探しちゃうのもラクでいいかもねえ」
カヨ「はいはい確かにそういう男性! いますね年上とか! 私…やっぱり、ぎんなん男の方が好きかも! ママ、ありがとう! もう行くねっ」
ママ「あら……ピスタチ男の他に、ぎんなん男もいたの。カヨちゃん、なかなかやるじゃない。でもぎんなんにも硬い殻があることを忘れずにね」
――カランカラン。
こうして、今日もダメ男に悩む乙女をまたひとり、恋愛という戦場に送り込んだマリアンヌママ。次のお客さまは、あなたかも!? スナックマリアンヌでは、迷える乙女の悩みを聞く憩いの場として、いつでもご来店をお待ちしています。
撮影協力:コワーキングスナックCONTENTZ分室
執筆=マリアンヌ / 撮影=K.ナガハシ (c)Pouch
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