水原希子の可愛い悪女は観ているこっちも狂うレベル! 映画『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』【最新シネマ批評】
【最新シネマ批評】
映画ライター斎藤香が最新映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、レビューをします。
今回ピックアップするのは、大根仁監督の最新作『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』(2017年9月16日公開)です。
渋谷直角さんの同名漫画を、『モテキ』や『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』の大根仁監督が実写映画化した作品。雑誌編集者の男と人気ファッションブランドのプレス担当の美女が織りなすラブコメディです。
【物語】
編集者コーロキ(妻夫木聡)は、ミュージシャンの奥田民生に憧れている33歳。
ライフマガジン「マレ」編集部に異動になった彼は、おしゃれ偏差値の高そうな編集者たちの会話に必死にくらいつきながら、“自然体で、かっこいい大人” 奥田民生精神を持ったセンスの良い編集者になろうと決意します。
ある日、コーロキは、先輩編集者の吉住(新井浩文)に紹介されたファッションブランドのプレス、あかり(水原希子)と出会い、一目惚れ!
その日からあかりにふさわしい男になろうと努力し、なんとかお付き合いまで持って行きますが、あかりは男たちを狂わせてきた魔性の女だったのです。
【かわいくて少々お子様な民生ボーイ】
最初にスクリーンにコーロキが登場したとき、ポワワーンした顔で奥田民生を熱く語る姿を見て、妻夫木聡が演じるには子供っぽいのではないかと思ったのですが、映画を見ているうちにその違和感は払拭されました。
なぜなら、90年代カルチャーにどっぷりのコーロキのようなサブカル男は、30代に突入しても大人の男になるのを拒否した世代のように映ったからです。良く言えば、自分の好きな世界にこだわり、周りにどう思われても自分スタイルを貫く。だから一瞬、妻夫木くんイタイと感じたけど、それは役作りとしては正解なんですね。
また最初のミーティングでは、みんなの会話がチンプンカンプンだったのに、慣れて来ると、仕事の会話も「ひとつよろしく」的に軽く、オシャレなライフスタイル編集者の「俺ってイケてる」感、最先端カルチャーに関わることで自尊心が満たされている様子も垣間見えました。
で、そんなコーロキが、重い恋愛に突き進むとどうなるか……。ノーテンキに突き進むか、イジイジするかどっちかだと思ったら、意外なことにすごく必死!
24時間、あかりにコンタクトが取れないと不安で、ずっとLINEを見ているし、既読になってないと「なぜだああああ」とすごい形相だし、余裕がなさ過ぎて、30代にして初めての本気の恋愛をしたのかと思いました。
【狂わせるガール、あかりという女】
そんなコーロキが夢中になるあかりは、そのファッションも振る舞いも、女性なら、計算ずくであることをすぐ見抜くでしょう。
脚がキレイに見えるスカート丈、オシリが美しく見えるジーンズ、男を見上げる時の眼差し、すべて男目線を意識したファッションと振る舞いなんですよ。
「コーロキさん、超かっこいい」と大げさにほめたり「彼の束縛がすごくて、DV受けてるの」と打ち明けて同情を誘ったり、仲よくなったら、どこでもイチャイチャベタベタしてきて、コーロキが骨抜きになるのも無理ありません!
あかりは、自分の魅せ方は計算していると思いますが、おそらく恋愛に関しては素直だと思います。ただ誰かに愛されていないと寂しいので、コーロキが忙しくて会えないと「じゃあ、別な男」という風になってしまう。それぞれの男がみんな「オレのあかり」だと思っているのだから、そりゃ修羅場を迎えるでしょう。
後半は恋模様に胸が痛くなるというより、三面記事のような展開に呆然ですよ。オシャレライフスタイルの編集者だけど、恋はオシャレどころか、ドロドロというのが皮肉だなと思いましたね。
【水原希子の可愛い悪女っぷりに夢中!】
おそらくあかりは「こんな女に振り回されたい」という男のM願望から生まれたのかもしれません。ある意味「姫」ですね。だから大根監督は、水原希子を超気合い入れてすごく綺麗に撮っています。またそれに応えた水原希子が素晴らしいんですよ。
私はあかりを通して、彼女自身の女優魂を強く感じました。コーロキとの数えきれないキスシーン、下着姿で男性と抱き合う艶めかしいシーンも大胆に演じ切って、どんなシーンも楽しむ器の大きさを感じました。その器の大きさが、大人の男たちを手のひらで転がす悪女には必要なわけで、希子ちゃんにドンピシャな役。
あかりは女子から総スカン食らうタイプですが、水原希子が演じたことで説得力が増しました。もうコーロキじゃなくても「なんて可愛いんだ!」と夢中です。
【脇役が濃すぎてスピンオフが見たくなるレベル】
この映画は主役の二人も魅力的ですが、脇役も個性派でがっちりかためて作品のクォリティを守っています。
身勝手なライターを演じたリリー・フランキー、怪しい編集長を演じた松尾スズキ、エキセントリックなコラムニストの安藤サクラ。それぞれ自分のキャラクターの爪痕をしっかり作品に残しています。
特に安藤サクラが演じた締切破りのコラムニスト、美上ゆうの強烈さは試写室でもガッツリ笑いを巻き起こしていましたね。恋愛部分がけっこうドロドロになっていくので、美上ゆうの存在はかなり救いになっています。
この映画、一見、デート映画に見えますが、男同士、女同士で見た方が盛り上がるかも。男はあるあるだろうし、女は二人の恋愛やあかりのキャラに、あーでもないこーでもないと話がヒートアップしそうですよ。
執筆=斎藤 香(c)Pouch
『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』
(2017年9月16日より、TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー)
監督・脚色:大根仁
出演:妻夫木聡、水原希子、新井浩文、安藤サクラ、江口のりこ、天海祐希、リリー・フランキー、松尾スズキほか
(C)2017「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」製作委員会