特急電車の中でゾンビに襲われて逃げられない感が苦しくなる! 大ピンチ映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』なぜか後半泣けちゃいます【最新シネマ批評】
【最新シネマ批評】
映画ライター斎藤香が最新映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、レビューをします。
今回ピックアップするのは、韓国発のゾンビ映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2017年9月1日公開)です。
「え~、ゾンビ映画?」と引き気味のみなさん、聞いてください。確かにゾンビは怖いし、かなりスリリングな映画なのですが、それだけじゃないんです。泣けるんです! それはなぜか? まずは物語からいってみましょう。
【物語】
ソウル発、プサン行の特急列車に乗り込んだソグ(コン・ユ)と娘のスアン(キム・スアン)。仕事最優先のソグと妻は折り合いが悪く別居中。ソグは、プサンに住んでいる妻のところへ娘を送っていくところでした。
二人が乗った特急列車のドアが締まる寸前、傷を負った挙動不審な女性が乗り込んできます。彼女は何かのウィルスに感染しており、助けに来た女性乗務員を襲います。
そして、ゾンビになった女性たちは次々と車両の客を襲い、ゾンビが増殖! 車内は大パニックに陥ります。
ソグはスアンを抱えて車両から車両へと逃げますが、特急列車は猛スピードで走っていて、列車内は完全な密室状態。果たして逃げ切れるのでしょうか……。
【スピーディで機敏なゾンビ】
ゾンビ映画といえば、ジョージ・A・ロメロ監督作『ゾンビ』や、ブラット・ピット主演作『ワールド・ウォーZ』などがありましたが、この映画はほぼ列車内で起こるゾンビVS人間の闘いで、逃げ場が制限されているだけにスリル倍増です。
おまけに、従来のゾンビはゆっくり迫ってくるイメージがあったのですが『新感染~』のゾンビは動きが速く、目があった瞬間に襲われると思っていいでしょう。
凄いスピードでガーッと襲ってくるのが恐ろし過ぎて、試写室で思わずのけぞっちゃいましたよ!
【ゾンビにどうやって対抗するか】
この映画のゾンビには習性があり、目視した者を反射的に襲うので、姿が見えないと襲ってこない(つまり暗闇が弱点)。また、ドアの開閉などのアクションができないので、ドアを閉めれば打ち破られない限り、襲うことができないのです。
ソグ&生き残った乗客たちは、その習性を利用して逃げ切ろうとするわけです。とはいえ、音を立てたら速攻襲われるので、ハラハラは止まりませんけどね。
【ゾンビに襲われて心の成長を遂げる主人公】
主人公のソグは、仕事人間で実に身勝手な男でした。娘への愛情はありますが、約束をした発表会に行ってあげないなど、自分のことを最優先にするタイプ。
そんな彼ですから、最初にゾンビ・パニックに陥ったとき、他の乗客のことなど頭になく、自分と娘だけが助かろうとします。そんな父の姿を見て娘はガッカリ……。しかし、窮地に立たされ、人の助けを得て、彼は変わるのです。
ソグを変える人物のひとりが、妊婦の妻と行動を共にする夫、サンファ(マ・ドンソク)です。Tシャツからのぞくムキムキの腕と、厚い胸板のマッチョなこの男が、ゾンビに立ち向かい大活躍します。
そのうち、危険を顧みずソグ親子を助けたサンファの影響で、ソグまでもゾンビ相手に大格闘! それまでのソグだったら、サンファに闘わせて自分は娘を連れてコソコソ逃げていただろうから、ソグの変化に大注目です。
【後半は涙の展開】
また本作は「泣けるゾンビ映画」と言われているのですが、それは登場人物がどんなに死力を尽くしても、増殖するゾンビにかなわず、愛する人を失って絶望したり、仲間が目の前で襲われたり、「ここまで頑張って生き抜いたのに、なんで!」ということが起こるからです。
信頼し合う人々がゾンビに引き裂かれていくシーンは辛くて、そんなシーンのたびに涙腺ゆるみっぱなし!
また、そんな泣きのシーンへの流れに無駄がないんですね。前半で登場人物の背景をきちんと描いているから、後半の展開に観客は心を寄せることができるのです。このあたり、ヨン・サンホ監督の演出の巧さが光ります!
【韓国アニメ界の奇才! ヨン・サンホ監督】
ヨン・サンホ監督は、本作が実写長編映画デビュー作ですが、実は韓国のアニメ界では有名な才人です。『新感染~』の前日譚と言われるアニメ映画『ソウル・ステーション/パンデミック』(2017年9月30日公開)や、新興宗教に溺れる人を描いた『我は神なり』(2017年10月21日公開)など、続々公開が予定されています。
ヨン・サンホ監督の作品は、いずれも社会派アニメと言われ、世界の映画祭で高評価を受けています。
しかし、初の実写監督作である『新感染 ファイナル・エクスプレス』は、人間の本質がゾンビ・パニックであぶりだされる作品とはいえ、社会派というよりエンタメに徹した作り。ゾンビのきっかけを作ったウィルスの詳細など、背景は多く語られませんからね。説明過多になるとスピーディな演出が鈍ってしまうからではないでしょうか。
ドキドキハラハラしたい人、強烈な刺激だけでなく、感動の涙を流したい人にもオススメな韓国映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』。ぜひ映画館でゾンビ体験してください。
執筆=斎藤 香 (C) Pouch
『新感染 ファイナル・エクスプレス』
(2017年9月1日より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー)
監督:ヨン・サンホ
出演:コン・ユ、チョン・ユミ、マ・ドンソク、キム・スアン、チェ・ウシク、アン・ソヒ、キム・ウィソンほか
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