限りなくジブリ作品に近いけど…話題作『メアリと魔女の花』は宮崎駿の魂を継承する魔法ファンタジーです【最新シネマ批評】
【公開中☆最新シネマ批評】
映画ライター斎藤香が最新映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、レビューをします。
今回ピックアップするのは、スタジオポノック第1回長編作品、米林宏昌監督の最新作『メアリと魔女の花』(2017年7月8日公開)です。
米林監督は、大ヒットしたジブリアニメ『借りぐらしのアリエッティ』『思い出のマーニー』の監督。ジブリを退社後、初めて手がけたのが、この『メアリと魔女の花』です。ではまず物語から。
【物語】
メアリ(声:杉咲花)は、森の中で不思議な花「夜間飛行」を見つけます。それは魔女の花。メアリは一夜だけ魔法の力を授かり、魔法の学校「エンドア大学」の入学を許可されます。校長のマダム・マンブルチューク(声:天海祐希)らに歓迎されますが、魔法の力を持ったばかりに、メアリはとんでもない事件に巻き込まれていくのです。
【『魔女の宅急便』×『ハリー・ポッター』?】
『メアリと魔女の花』は、イギリス人作家メアリー・スチュワートの児童文学「The Little Broomstick(小さな魔法のほうき)」の映画化。『魔女の宅急便』×『ハリー・ポッター』というのは、メアリがほうきにまたがって空を飛ぶ姿は『魔女の宅急便』のキキをほうふつとさせますし、魔法の学校なんて、まさに『ハリポタ』じゃないですか!
しかし、この映画は全く別の世界を見せてくれます。メアリは、キキやハリーみたいに魔力を持っているわけではなく、魔法の力を持った花に触れたことによって一夜限りの魔法使いになるのです。だから、ほうきに乗って飛ぶときもオタオタしていますし、学校へ行っても「???」ですよ。
また「エンドア大学」はちょっと変わった学校。マダム・マンブルチューク校長が牛耳っており、魔法科学者のドクター・デイ(声:小日向文世)が変な発明をしていて、生徒も謎な感じ。メアリは次第に「何かがおかしい」と感じ始めるんですね。そして、彼女が持つ「夜間飛行」にその秘密が隠されていたのです。
【魔法よりも自分の力を信じよう】
もしも魔法が使えたら、きっと困ったときは魔法の力に頼ってしまうでしょう。「試してみたい」と思ったりしますからね。メアリがそう思う気持ちはわかる! でも、その気持ちを一蹴してくれるのが、この映画なのです。
魔法の力は万能のパワー。でも魔力を手に入れたら、人は努力をしなくなるか、その力を自身の欲を満たすために使ってしまうかもしれません。そりゃちょっとくらい魔力で遊んでみたいとは思いますが、自分の力を信じることがいちばん強い、いちばん大事ということがこの映画の最大のメッセージ。この物語は、メアリが魔法の力を体験することで学びを得る物語です。
とはいえ、一夜限りの魔法使いというのはとてもドラマチックだし、「夜間飛行」をめぐるマダム・マンブルチューク校長との攻防、親友になったピーター(声:神木隆之介)との友情など、メアリがこれまでなかった出会いと経験を経て成長していく姿は見ものです。
そして『思い出のマーニー』同様に、この映画にもちょっとした仕掛けが施されています。映画のラストで「あ、そうだったのか」みたいな。これもまたお楽しみですね!
【ジブリの志を継ぐ者たち】
この映画のポスターを見て「ジブリの新作?」と思った人は多いでしょう。だって見た目はまるごとジブリですからね! しかし、この映画はスタジオポノック作品。スタジオポノックとは、2015年に設立されたアニメ制作会社で、ジブリを退社した米林監督と元ジブリの西村義明プロデューサーが設立したアニメスタジオなのです。
宮崎駿監督が引退を表明した際(撤回しましたが……)制作部門が解散になったので、元ジブリのアニメーターが本作には多く参加しています。だから本作は限りなくジブリ色。プロデューサーも監督もジブリで学び、ジブリの志を継ぐ人たちですから、当然そうなるでしょう。
しかし、米林作品だけで言えば前作『思い出のマーニー』はジブリ映画だったけど、宮崎監督は描かないであろう、米林監督ならではの叙情的な世界をビシバシ感じることができました。『メアリと魔法の花』はそれが薄まった感があり、そこが個人的には残念……。
とはいえ、楽しくて可愛くてスリルも楽しめる本作。何より空飛ぶシーンの浮遊感! 気持ち良いですよ。
執筆=斎藤 香 (C) Pouch
『メアリと魔女の花』
(2017年7月8日より、TOHOシネマズスカラ座ほか全国ロードショー)
監督:米林宏昌
声の出演:杉咲花、神木隆之介、天海祐希、小日向文世、満島ひかり、佐藤二朗、遠藤憲一、渡辺えり、大竹しのぶほか
(C)「メアリと魔女の花」製作委員会