みんな良い人なのに幸福になれない理由とは? 映画『光をくれた人』 は2017年で最も泣ける映画です【最新シネマ批評】
【最新シネマ批評】
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかから、おススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。
今回ピックアップするのは、号泣映画『光をくれた人』(2017年5月26日公開)です。全米公開時に「ティッシュ会社が儲かるくらい泣ける」と宣伝文句になったほどの感動作。
主演は『リリーのすべて』でアカデミー賞助演女優賞を受賞したアリシア・ヴィキャンデルと、『スティーブ・ジョブズ』などの演技派マイケル・ファスベンダー。本作は、ある選択が人生を激変させてしまう愛の物語なのです。
【物語】
舞台は1918年、オーストラリア。第一次世界大戦から帰還したトム(マイケル・ファスベンダー)は孤島の灯台守を務めることになり、地元の名士の娘イザベル(アリシア・ヴィキャンデル)と結婚します。子供を望んだ二人ですが、イザベルは流産してしまいます。
そんなとき、一隻のボートが島へ流されてきます。そこには赤ちゃんと赤ちゃんの父親である男性の死体。トムは警察に連絡しようとしますが、イザベルは「死体を隠して、この子を我が子に」とトムに懇願しました。
彼は妻の願いを叶え、3人は本当の家族のように幸福に暮らしていましたが、ある日、本当の母親ハナ(レイチェル・ワイズ)が現れて……。
【ひとつの嘘で人生が変わってしまう】
これはもう「最後まで泣かないで見なさい」なんて言われても無理! なぜなら、イザベル、トム、ハナ、それぞれの気持ちに共感できるからです。
お腹の子供を失い、悲しみにくれるイザベルの元に突然やってきた赤ちゃん。その赤ちゃんを我が子として育てたいと思うイザベルの気持ち。でも常識で考えれば通報はしなければならない。でも通報すれば赤ちゃんは取り上げられるだろう。妻の悲しみを思い、死体を隠したトムの気持ち。
しかし、娘と夫を一緒に失ったハナの喪失感は想像を絶するものがあります。赤ちゃんの本当の母がハナだとは知らないイザベルが、ハナに「自分の娘です」と紹介するときなど、胸がキューンと痛くなりましたよ。
実はトムは、早くにハナが赤ちゃんの母親だと気付いて、思いがけない行動をとるのですが、それは真実を隠して生きるのが辛いのではなく、ハナが気の毒で仕方がなかったからでしょう。
この映画を見ている間、ずっとみんなが幸せになる解決策に思いを巡らせてしまいました。でもないんです。なぜなら、ボートを発見したときに夫婦が下した決断はやはり間違っていたからです。
【みんな良い人なのに幸福になれない悲しみ】
夫婦は過ちを犯したけれど、決して悪人ではなく、真実を知ったとき、自分たちの行いに深く心を痛めます。
夫婦と赤ちゃんとハナの関係がどうなるのかは映画を見てほしいのですが、ハナもとてもいい人です。真面目にきちんと生きて来た彼女が、突然夫と娘を失ってしまう。何でこんなことになってしまうのだろうと、ハナと一緒に抱き合って泣きたい気持ちになりました。
みんな良い人、悪い人なんてひとりも出てこないのに、みんなが幸福から遠ざかっていく……それが見ていてとても悲しいのです。
【夫婦の過ちを救う夫婦愛】
また、イザベルとトムの行動を見ていると、子供を介したときの男女の違いもよく描かれています。やはり女は何より母性、子供に情が移ったら後戻りできないのです。でも男性は父性が芽生えても、どこか客観的に状況を見て、正しい行いをしようとするのかもしれないと思いました。
最後にイザベルとトムは、それぞれが “ある決断” をします。二人の愛の証のような展開は、身を引き裂かれるような辛い出来事を乗り越えた愛を感じました。もう本当に最後の最後まで泣かされましたよ。この映画を見るときはティッシュを箱で持参するしかありません!
自分だったらどうするだろう……と思わず考えてしまう映画『光をくれた人』。ラブストーリーが見たい人、泣ける感動作が見たいという人は必見です。
執筆=斎藤 香 (C) Pouch
『光をくれた人』
(2017年5月26日より、TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー)
監督:デレク・シアンフランス
出演:マイケル・ファスベンダー、アリシア・ヴィキャンデル、レイチェル・ワイズ、ブライアン・ブラウン、ジャック・トンプソンほか
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