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【連載】私の彼、他にも彼女がいるみたいなんです…。 ダメ男に悩む乙女限定の「スナック マリアンヌ」

   



ここは、恵比寿の外れに佇む雑居ビルの2階、スナックマリアンヌ。ダメそうでダメじゃないちょっとだけダメな男に悩む乙女が夜な夜な集う、憩いの場です。今宵も、マリアンヌママに話を聞いてもらおうと、お客さまがやってきたようです。

――カランカラン。

乙女「あの……空いてますか? その、相談を聞いてくれるって友だちに聞いて……。その、私こういうお店初めてで……」

ママ「いらっしゃい。とりあえず落ち着いて、大丈夫だから。ね、座ってちょうだい」

乙女「あっ、すみません! 勝手に私、その……お酒ください」

【今日のダメ男さん:職場のウブな年下女子を食い尽くす、モテ書店員】

相談者:ナナミ(20歳)
職業:大学生・書店アルバイト

ダメ男さん:彼氏(28歳)
職業:書店員

交際期間:3か月
出会いのきっかけ:アルバイト先の書店で


ママ「落ち着いたかしら? さあ、話してみてちょうだい」

ナナミ「今、付き合って3か月の彼がいるんです。彼は、私のアルバイト先の社員で書店員です。すごくかっこよくって、頭もよくって、仕事もできて、おもしろくって、本にも詳しくて、みんなからも人気があって……」

ママ「そん、な、に、ステキな、人が、いるなら、見て、みたいわね(ゴンッ! ゴンッ!)」

ナナミ「そうそう、そうなんです。本当に本当に、私にはもったいないくらいなんです!」

ママ「ええ、わか、ったわ。あなた、い、ま、大学、生、なーの、かしら?(ゴンッ! ゴンッ!)」

ナナミ「はい、大学3年です。あの……さっきから何の音ですか? なんでめいっぱい力入れてるんですか? ていうかママ、私の話聞いてます?」

ママ「(ゴンッ!)ええ、聞いてるわよ、もちろん……。さあ、今日のおつまみは【たたききゅうり】よ。愛情込めて叩いて、味を染み込ませておいたわ」

ナナミ「たたききゅうり、先に叩いておかないと、味染み込まなくないですか?」

ママ「その……念には念をってことで、もう一度叩いたのよ。さあ、食べて」

ナナミ「なんか、ちょっとボロッとしてるけど……というか相当ボッロボロだけど……でもものすごく味が染み込んでておいしいです。なにげにシャキシャキしてる!」

ママ「そう、よかった。さあ、さっきのおのろけ話の続きをしましょうね。そんなにステキな彼のどこが問題なのかしら?」

ナナミ「その……その……まだわかんないんですけど……」

ママ「さっ、一杯飲み干して、全部言っちゃいなさい」

ナナミ「(ぐびっぐびっ)ふう……。彼、私以外にも、付き合ってる人がいるみたいなんです。しかも、その相手が同じ職場で一緒に働く私の友だちで……」

ママ「あらあらあらあら、全然ステキでもなんでもない、っていうか思いっきり全速力でサイテー最悪じゃないの」

ナナミ「でも、私みたいな女と付き合ってくれるだけで、ありがたいっていうか、まだそうと決まったわけじゃないし……」

ママ「そのお友だち子ちゃんは、どう言ってたのかしら?」

ナナミ「『彼から付き合ってること内緒にしてほしいって言われたけど、ナナミだけには教えとくね、実は付き合ってるのー』って。私も彼に『付き合ってること誰にも言わないで』って言われてるから、思わず『そうなんだ私とおんなじだね!』って言いそうになったけどやめました。でも、言うべきなのかなあ」

ママ「(ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ! ゴンゴンゴンッ! ゴリッ)」

ナナミ「あの……何かアドバイスもらえますか? っていうか何たたいてますか、ほんとにきゅうりですか? あと最後けっこう不吉な音したんですけど大丈夫ですか?」

ママ「そうねえ。ありきたりなアドバイスをするとすれば……世界は、思ったよりずっと広いわ。はっきり言って、いい男は山ほどいる。そんなドブ掃除中にみつけたおっさんの通勤靴みたいなクソの相手なんかしなくていい。もっと現実を見て、かしら?」

ナナミ「はあ……」

ママ「って言っても、若いうちは意見に耳を貸せないものよね。さっ、あなたもこのきゅうり、叩いてごらんなさい」

 

ナナミ「えっ、きゅうりをですか? 麺棒ないし……」

ママ「麺棒なんてなくていいのよ。素手でいいの! こういう時は考えるより、行動。さあっ」

ナナミ「はい……(コンッ、コンッ)」

ママ「もっと、力を入れて! (ゴンッ、ゴンッ)こうよ」

ナナミ「はい!(コンッ、ゴンッ、ゴンッ)」

ママ「そう、その調子。さっ叩きながら、彼への本音を言ってみて。今なら、言えるでしょ」

ナナミ「(ゴンッ)……バカ! (ゴンッ)……浮気野郎!」

ママ「もっと全部、言っちゃいなさい」

ナナミ「(ゴンッ)……アホ!(ゴンッ)……実はそんなにかっこよくないし、よく鼻毛出てるくせに!!」

ママ「……。そう、その調子よ!」

ナナミ「(ゴンッ)……くそマザコン!(ゴンッ)……デートコースから今日着る服までママに聞いてんじゃねえよ!!」

ママ「ちょっと待ってその男のどこが好きだったの!」

ナナミ「(ゴンッ)……くそ貧乏!(ゴンッ)……財布忘れたとか言ってホテル代全額払わせようとすんじゃねえよ直前のレストランで財布出してただろ!!」

ママ「ちょっと待って、せこい上にアホ! このコラムは『ダメそうでダメじゃないちょっとだけダメな男』対策のアドバイスだったはずだけど、そこよりずっと全然ダメな男だったわ!」

ナナミ「(ゴンッ!)ママ、私ガツンと彼に言ってやります! それで、あいつをこのきゅうりみたいにしてやります!」

ママ「そうねっ、そうしてちょうだい。でも、できたら警察のお世話にならない方法でお願い、ほんとに」

ナナミ「はい!! 私、やる気出てきました! ママありがとう!」

――カランカラン。

常連客「ママ、今夜はきゅうり何本叩いたの…?」

ママ「ざっと2週間分ってところかしら。たまには力技も必要だからね……。この仕事、意外と楽じゃないのよ?」

こうして、今日もダメ男に悩む乙女をまたひとり、恋愛という戦場に送り込んだマリアンヌママ。次のお客さまは、あなたかも!? スナックマリアンヌでは、迷える乙女の悩みを聞く憩いの場として、いつでもご来店をお待ちしています。

撮影協力:コワーキングスナックCONTENTZ分室
執筆=マリアンヌ (c)Pouch / 撮影=K.ナガハシ

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