映画『ベイビー・ドライバー』はカーチェイス版ラ・ラ・ランド⁉︎ 役者も車もテンポよく演技するミュージカル風カーアクション作品です【最新シネマ批評】
【最新シネマ批評】
映画ライター斎藤香が最新映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、レビューをします。
今回ピックアップするのは、新しいカーアクションの世界を体感できる映画『ベイビー・ドライバー』(2017年8月19日公開)です。
「ド派手なカーアクションとか男子向き」と思っているあなた。この映画は火薬を大量に使って車が破壊される映画とは違う、ミュージカル風カーアクション映画なんです。ではまず、物語からいってみましょう!
【物語】
犯罪組織の運転手のベイビー(アンセル・エルゴート)は、仲間が銀行や現金輸送車を襲ったあとに、彼らを逃がすことを生業とするドライバー。
交通事故で聴覚に障害が残り、耳鳴りが止まらないベイビーは、常にイヤホンで音楽を聴きながら、リズムに合わせて行動をおこし、超絶ドライブテクもビートに乗ってテンポ良くこなしていきます。彼と音楽は一心同体なのです。
そんなベイビーが、いきつけのダイナーに勤めるデボラ(リリー・ジェイムズ)に恋をします。彼はデボラのために組織から足を洗おうとするのですが……。
【新感覚のミュージカル風カーアクション映画】
キャッチコピーは「カーチェイス版『ラ・ラ・ランド』」。キャストが高らかに歌ったりはしませんが、彼らは常に音楽と共に行動しています。犯罪の打ち合わせのとき、ベイビーが机をピアノの鍵盤に見立てて指を動かしていたり、コーヒーを買いに行くとき、リズムに合わせたウォーキングをしたり。
特に痛快なのはドライブシーンで、仲間を待っているときからエアボーカルでノリノリ。そして強盗を終えた仲間が乗ったら、いきなりトップスピードで突っ走り、タイヤの音や車の動き、すべてを音楽に乗せていきます。だから、見ている方もノリノリになれるんですよ。
【楽しいだけじゃないロマンスと感動もあり】
しかし、ベイビーの過去は悲しく、その真実が明かされると、彼の孤独との闘いに涙腺が緩みます。ずっと信頼を寄せてきたのは、面倒をみてくれた耳の不自由な里親だけ。
けれども、デボラと出会ってベイビーの人生は開けるのです。だからこそ、二人には幸せになってほしくて。二人は惹かれあっているけれど、ベイビーはいつも死を背中合わせのドライバー。二人の愛の行方にはハラハラしっぱなしです。
【エドガー・ライト監督の名前をおぼえておこう】
この映画を監督したエドガー・ライト監督は、イギリス生まれの43歳。20歳のときに低予算の長編映画で監督デビューし、アクションコメディ「ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!」など笑いの要素が強い作品を手がけてきました。
けれども、ずっと「音楽を原動力にするアクション映画を撮りたい」と言い続けていた監督で、ビートに合わせてカーアクションを演出する『ベイビー・ドライバー』をアメリカで完成させました。
この映画が従来のカーアクション映画と違うのは、高級車が大量に破壊されないことです。ベイビーの超絶テクは車を守り、乗り捨てることはしても、ぶち壊したりしません。そこがスマートでかっこいいのですよ。
ちなみに冒頭のカーチェイスのシーンで使用されているのはスバルWRX。監督は「操作性に優れた車だから、犯罪現場から逃げるには最適だ」と語っています。
【これからの映画界を担う面々がズラリ!】
本作は全米大ヒット、絶賛レビューも多数あり、ライト監督は本作で人気監督の仲間入り。そして、主演のアンセル・エルゴート、ヒロインのリリー・ジェイムズ(実写版『シンデレラ』主演)も注目度アップ。彼らも映画界を盛り上げていく次世代スターです。
また本作では、ベテランもいい仕事しているんですよねえ。途中から組織に参加してきたバッツを演じたジェイミー・フォックス(映画『Ray/レイ』でアカデミー賞主演男優賞受賞)なんて、狂犬みたいでしたから。
バッツは人懐っこく近づいてきて、いきなり刺す! みたいなことを平気でやりそうな男。この男が登場してから不穏な空気が立ち込め、ベイビーは組織から離れようとするのです。バッツがデボラに近づいたときなんて、心臓が口から飛び出しそうなくらいドキドキしましたよ!
『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』や『スパイダーマン:ホームカミング』みたいな華やかさには欠けるかもしれないけど、見れば絶対に満足度は高いですし「イケてる映画、知ってるんだよね~」と周囲に自慢できること必至。デート映画にも最適なので、ぜひ好きな人を誘って見てください!
執筆=斎藤 香 (c) Pouch
『ベイビー・ドライバー』
監督:エドガー・ライト
出演:アンセル・エルゴート、ケヴィン・スペイシー、リリー・ジェームズ、エイザ・ゴンザレス、ジョン・ハム、ジェイミー・フォックスほか
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